一昨年の今頃だったでしょうか。田中清代さんの絵本が久しぶりに出ると聞いたとき、とても嬉しかったのを覚えています。そして実際にその絵本を手にしたとき、宝物のように思えて、大事にページをめくっていきました。
ひとりで帰るいつもの道で、女の子が不思議ないきものをみつけます。どうやら、自分にしか見えていないみたいです。ある日、思いきって声をかけると、その〝くろいの〟は、台の上からおりてきて、とことこ歩きだしました。ついていくと、へいの穴からもぐりこんだのは、ほどよく古びた日本家屋。そこは、くろいのの家でした。
おしゃべりはしないまま、居心地のいい居間でお茶を飲んだあと、くろいのは女の子を、押し入れの中から屋根裏につれていってくれました。そこに広がっていたのは、暗闇の中にキノコやコケが光る幻想的な世界。ブランコやすべり台で思いきり遊んだあと、ふたりは大きな生きものの柔らかな毛なみにつつまれてぐっすり眠りました。お母さんの夢を見た女の子は、また、くろいのとともに居間にもどってきます。
田中清代さんのブログを拝見していたところ、「くろいの」は、いつか絵本にしたいと温めていたキャラクターだったそう!銅板画で描かれた繊細でゆったりと描かれた絵は、映画のワンシーンのようです。女の子とくろいのは、画面いっぱいに生き生きと動き回ります。
くろいのの存在は、女の子にとって、普段はできない「寄り道」への憧れだったのかもしれないですが、くろいのとお別れして、お父さんと会ったとき、どこか女の子はほっとした気持ちにもなったのかなあなんて考えました。
この絵本は夫も気に入っていて、ある中学校への出張授業の際に、生徒のみなさんに紹介したく持って行ったそうです。そのとき参加していた女子生徒さんが絵本を手に取りとても嬉しそうに読んでいたのが印象的だったそう。私自身も、今年いくつもの小学校へブックトークをしにいかせていただいたのですが、この絵本はかならず持っていき紹介しました。「くろいの」を紹介するときはできるかぎり最初から最後まで読むことにしているのですが、読んでいる間じゅう、絵本をしっかりと見つめてくれている子どもたち。とくに暗闇からはじまる押入れのシーン(素晴らしいのでぜひみていただきたい)になったとき小さな歓声をあげていました。
終わってからの自由に本を読んでいいよという15分程度の時間には、読んであげたはずの「くろいの」を、あらためて自分で開いて読んでいる子どもたちの多いこと!
いつまでも大事に読みたい・紹介していきたい1冊です。
田中さんの「ねえ だっこして」もお気に入りなのですが、この絵本についてはまた今度。
「くろいの」田中清代・作/絵(偕成社)
おまけ・わがやの「くろいの」
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